こんにちは!OMT(アウトドアマウンテントレーナー)の澤田佳奈です。
私は普段、フィットネスインストラクターとして公共施設でのグループレッスンを行っています。また、通信制サポート校非常勤講師として高校一年生の担任をするかたわら、昨今のコロナ禍による自身の経済的打撃で、新たに三番目の仕事となる介護業務に従事し始めました。文字通りのトリプルワークは精神的にも体力的にも大変です。まだまだ物価高騰による家計への直撃は続きそうですね。
皆さんも、ご自身の体を大切にしつつ、休日や余暇は、寝て過ごすだけではなく、街や山に繰り出し、心身を解放してみてください。家で寝ているより、疲れは取れると思いますよ。
さて、今回は、そんな私が昨年から始めた「山活」の中から、感動する一幕について紹介させていただきます。
澤田佳奈プロフィール
その前に…私のプロフィールです。
名前:澤田佳奈(さわだかな)
出身:北海道小樽市
在住:福岡県飯塚市(最終勤務地がここだったからという理由)
前職:陸上自衛官
現職:フィットネスインストラクター、通信制サポート校非常勤講師、介護職員
所属:日本アウトドアトレーニング協会、ZUNBA®FITNESS
趣味:里山低山縦走、ジャーニーラン、歴史街道走り歩き
走歴:30年、2017年に「日本縦断走り旅」で自分より先輩の方々10名と沖縄本島喜屋武岬から日本最東端・納沙布岬(北海道根室市)迄59日間3050Kⅿを走破
山活歴:2年目、もっぱら里山低山中心
そうだ、山へ行こう!
新型コロナウィルスが世に出始めて、最初の緊急事態宣言が始まる直前の2020年3月…。毎週日曜日のランニング大会やイベントも軒並み中止、自身のフィットネスサークルも、会場となる公共施設が「感染防止対策」として、閉鎖される寸前…。
無駄に元気で、有り余る自身の体力を持て余していた私…。
「あ~、たいくつだ~」
家のソファに寝ころび、窓から外の景色を眺めると…。そこに広がるのは、里山の尾根…。
「そうだ、山へ行こう!」
山なら広いし、人とすれ違っても長時間、「密」になるコトは無い。そう思って近場の里山に出かけたのが始まりです。空気は新鮮で、ウグイスの鳴き声に癒されました。
スマホに地図アプリのYAMAP(ヤマップ)を入れたのもこの頃です。
市内に「山頂に猫が暮らす山」があるらしい?
ある日のこと、いつものように山の活動記録をYAMAPにアップして、フェイスブックの「いいね」にあたる「DOMO(どうも)」をしてくれた人たちの活動記録を見ていると…。
なんと、市内に「山頂に猫が暮らす山」がある、というではないですか!
猫好きで、実際に猫を一匹飼っている私としては、見過ごせません。さっそく、出かけてみることに…。場所は、福岡県のほぼ中央に位置する、飯塚市と田川市の境界にある「関の山」。
標高359mの低山で、子供からお年寄りまで楽しめる、ファミリー向けの山です。3月下旬のある日、山頂に行ってみると、確かに猫が一匹、居ました!立派なキャットハウス(登山者のお孫さんが創ったそうです)もあって、みんなから可愛がられている様子がうかがえました。
年齢的に2歳前後でしょうか?なかなか美人さんです。名前は?「関の山だから、セキちゃん」「マリちゃん」?みな、勝手な名前で呼んでいましたが、私は「マリちゃん」と呼ばせていただきました。
マリちゃん、最近、太ったんじゃない?
聞くところによると、マリちゃんは、ふもとの駐車場の近くの空き家で生れた猫だそうです。空腹を満たすため、駐車場で車から降りてきた登山者にご飯をおねだりするうちに、登山者にくっついて一緒に山に登るようになったそう。
もちろん、猫ですから、人と同じペースで登るわけにはいきません。ついていけなくなったら、次の登山者を待って途中まで一緒に登り、また、次の登山者と…。通常、大人の脚で1時間以内の登山道を、山頂まで2時間かけて登っていたようです。
関の山の山頂は、正面に嘉穂アルプスと呼ばれる馬見山・屏山・古処山をはじめ、右手には竜王山から大根地山の峰々、そして背後には映画「青春の門」の舞台となった香春岳といったロケーションが広がります。
3方向をグルリと見渡せる展望の良い山頂は、随所にベンチが置かれ、登山者有志の手によるテーブルと椅子のセットも置かれています。そこでマリちゃんは、山頂に居ればたくさんの登山者が自分にご飯をくれる、ということを学びました。以来、関の山は「山頂で猫が暮らす山」として、福岡の低山ガイドブックにも紹介されています。
そんなマリちゃん、お昼は登山者からたくさんご飯をもらいますが、みんなが帰った夕方から翌朝は食べるものがありません。ある日の明け方、私が行くと、一目散に駆けてきて、ご飯をバクバク食べ始めました。山の生活は大変そうです。
「マリちゃん、食べすぎやん、最近、太ったんじゃない?」
そんな声が登山者の間から聞かれるようになりました。
「もしかして、ご懐妊?」
太りすぎ説と妊娠説…果たして真相は?
一番弟子の?Rさんが案内されて行ってみると…
マリちゃんのことが気になって、YAMAPの関の山のページを毎日見る日々…。ある日「マリちゃんのお腹がペッタンコになっている!」という情報が…。どうやら、妊娠説は正しかったようです。
それにしても、山頂でたった一匹で仔猫を産んで、その仔猫を何処に隠しているのでしょう?みんな、仔猫のお披露目を今か今か、と待ち構えていました。
産んで一週間が経過したと思われる4月の第二週のある日、毎日のように関の山に登ってマリちゃんのお世話をしているRさん(男性)が、マリちゃんの案内する岩場に行ってみると、なんと岩と岩の間のささやぶの奥から、仔猫が一匹、二匹…。総勢七匹の仔猫がマリちゃんに続いて出てきたそうです!
マリちゃん自身はキジ白なのですが、お相手は黒猫さんだったらしく、仔猫も黒猫とキジトラの割合が半々、♂♀の割合も半々でした。あまりの可愛さに、Rさんはその場で♂♀一匹ずつ連れ帰ったそうです。岩場から次々と仔猫が出てくる場面、私も見たかったなあ~。
山頂で始まる必死の子育て
仔猫が岩場からお目見えして以来、それまでマリちゃん目当てで来ていた登山者の数が、一気に増え始めました。土日は駐車場に車を止めきれないくらい…。みんな、口々に「可愛い」と言ってご飯やおやつをあげますが、しかし母猫にとっても仔猫にとっても、山頂の暮しは過酷です。
夜になると鹿、サル、イノシシ、アナグマといった野生動物のほか、上空ではカラスが常時、様子をうかがっています(だからこそ、カラスが入り込めないささやぶに仔猫を産んで隠したのでしょう、本当に野生の知恵ってスゴイなって思います)。
季節は快適な春から初夏を経て、まもなく梅雨を迎えようとしていました。梅雨が過ぎれば、過酷な夏がやってきます。その間にも、もともとの七匹から、その場でRさんにもらわれて五匹となった仔猫のうち、何匹かは登山者に家族として迎えられ、その旨をキャットハウスに丁寧に書いた貼り紙が貼られてホッとしていたところです。
けれど、残る仔猫はあと三匹…。マリちゃんも含めて四匹でこれから先の季節を乗り越えなければなりません。仔猫も離乳期を迎え、登山者がマリちゃんにあげる成猫用のキャットフードも食べるようになりました。離乳を終えると母猫はメス猫になって再びオス猫を求めてふもとに降り始めます。
「マリちゃん、途中まで降りてたバイ」
そんな言葉を聞いてドキっとしました。中には山頂に猫が居ることを快く思っていない登山者の方もおり、キャットハウスに置いていたフードが捨てられていることもありました。
ある時は市に通報が入り、登山とは不向きなスーツ姿で山頂を訪れた、明らかに市の職員と思われる方の姿を見た、という報告もありました。このままではいけない。いつまでも「カワイイね」では何も物事は進展しない。一番イイのは?みんなが幸せになれる方法はなんでしょうか?
見事な連携プレイ!
6月中旬のある日、思っていることを書いてキャットハウスに貼り紙をしてみました。
内容は「仔猫たちもそろそろ離乳のタイミングで、マリちゃんと一緒に山からいったん降ろして近くの動物病院に連れて行く。そこで簡単な検査をして里親の募集、そしてマリちゃんにはこのタイミングで避妊手術…」。
私一人では無理なので、一緒に山から降ろして動物病院まで運んでくれる人、あわせてマリちゃんの避妊手術にかかる費用の募金も募りました。なんと、一週間で15万円の金額が、急遽開設した信用金庫の口座とペイペイに!山を愛する人は、基本、優しい人なのだ、とあらためて実感した次第です。
そして「今まで個人とのやり取り、大変だったでしょう?」とLINEでオープンチャットグループも作っていただき、以降、そこがマリちゃんファミリーの情報交換の場となりました。そうして迎えた、決戦の日…。そう、マリちゃんと仔猫二匹を山から降ろす日です。
おっと、その前に…。実は、仔猫三匹のうち、一匹はもらわれていきました。ですが、山頂から降りてすぐ、ささやぶに逃げこんでしまう、という脱走劇が…。私もその場に居合わせたのですが、登山者の方たちがドンドンささやぶの中に入りこんでしまうため、仔猫は驚いて出てきません。
いったん、退散して私一人で午後になって再び山に登ると、逃げ込んだ反対側のささやぶから仔猫の鳴き声がします。思ったとおり、午後になってお腹が空いていたようで、スマホアプリの「猫語翻訳機」を使って「愛しています。こっちへ来て」を連呼するとささやぶから出てきました。
それでも、まだ、警戒心が解かれていなかったので、ちょうど登ってきたRさんにお願いして、山頂からマリちゃんを連れてきてもらい、無事、仔猫とマリちゃんは、肩を並べて山頂へ帰っていきました(どうしても一匹連れて帰る、といったこの日の登山者は、もう一匹を連れて帰ったので最終的に山頂に残った仔猫はキジの♂と黒猫の♀の計二匹)。
6月最終土曜日、この日は遂に山からマリちゃんと残る仔猫二匹を降ろして病院へ連れていく日です。うまく捕まえられるかどうか、わからないので、病院は予約していませんが「その日に必ず伺います」とだけ電話を入れておきました。
実は、この日集まるメンバーは、互いが初対面です。日時と段取りをLINEのチャットルームでやり取りし、当日午前8時半に駐車場で待ち合わせ。隣の田川市から来られたNさん(女性)は、実家で保護猫活動をされている方で、登山者の父から関の山猫の話を聞いて、この日一緒に登ってくれることになりました。なんと、この日が人生で初めての登山だったそうです。
山頂に行くと、今日山からマリちゃんファミリーを降ろす、という事前情報を聞きつけたご夫婦が既に山頂に居て、マリちゃんにミルクをあげて落ち着かせてくれていました。結局、ご夫婦と駐車場に集まった小学生の男の子を含む、総勢12名で交互にマリちゃんファミリーを運んで駐車場へ。駐車場から車に分乗して動物病院へ。
この時点で、一緒に居たメンバーのうち、一人の女性が黒猫の♀の仔猫の里親になると決意表明。基本的な検査とワクチン摂取の後、無事に引き取られていきました。そして、残るキジくんは、保護猫活動家のNさんが一時預かりしてくださることに。マリちゃんだけお山に帰すのは申し訳ないですが、仕方がありません。
結局、この日は避妊手術に必要な検査のみで、肝心の手術は翌週に持ち越しとなりました。翌週、私は行けませんでしたが、女子三人で無事、山からマリちゃんを降ろし、避妊手術。その日は動物病院で一泊、翌日はまだ引き取り先が無く、再び山に帰すことになっていたので、動物病院の先生は、ガッチリ縫合して下さいました。
実は、マリちゃんのお腹の中には、二度目の妊娠の種があったそうで、可哀そうですが堕胎という結果になりました。あらためて猫の繁殖力には目を見張るものがあり、驚かされました。翌日の迎えは、私と男性一人とNさんでしたが、ここでもNさんが自宅で一時預かりを申し出て、なんとか、衛生面での心配は無くなりました(ちなみにキジくんは、別なご家庭にトライアルされていたため、マリちゃんとは会っていません)。
みんな幸せに…
その後、NさんからLINEのチャットグループに寄せられたマリちゃんの写真です。
仔猫たちを外敵から守る任務から解放されて…。環境変われば、こうも変わるのか?というくらい、別猫さんです。結局、最後まで残った仔猫のキジくんは、トライアル先からNさん宅の飼い猫に(もずくくん、という名前をもらいました)。
そして、マリちゃんは?
最初に山から降ろす日に、山頂で待機していたご夫婦が新たな家族として迎え入れることを表明されました。
2021年7月最初の時点で、関の山から猫は居なくなりました。同時に土日、あれだけにぎわっていた駐車場もガラガラで、関の山観光協会があったら、山から猫を降ろした言い出しっぺの私は責められていたことでしょう。今は閑散とした関の山ですが、時々、当時を懐かしんで登る登山者は居ます。
善意で頂いた15万円は、とてもマリちゃん一匹の避妊手術代では有り余るので、仔猫たちの去勢&避妊手術台として、里親になっていただいた方々へお配り致しました。その仔猫たちも、無事、去勢&避妊手術を終え、立派な成猫に成長したようです。
単なるコロナ禍の暇つぶし?で登り始めた里山登山ですが、結果として私にとっては思いがけない出来事に遭遇し、貴重な経験をさせていただきました。なにかと暗い話題の多い昨今ですが、今回提供させていただいた話題が少しでも皆様の心のビタミンとなれば幸いです。