自宅で過ごす時間が増える中、アフターコロナの活動に思いを巡らせる方も多いのではないでしょうか。本協会が今秋に開催を予定している JOTA-OMT は登山やハイキングの指導者を目指すための資格です。
今回はアウトドアマウンテントレーナーが備えるべき知識の中から、今夏・今秋にハイキングや登山のデビューを検討している方が自宅で行える、リサーチや準備について解説いたします。
緊急事態宣言の解除後に、素晴らしい山行を実現できるよう、今できる「自宅での準備」を行っていきましょう。
目標の山を決める
登山やハイキングには出会える景色や、山頂にたどり着くまでの運動量、大自然の中で摂る美味しい食事や下山後の温泉・お酒など多くの魅力があります。
それらを満遍なく楽しむ為には、どのような景色を観たいのか、現在の自身の体力レベルはどの程度なのか、どのような交通手段や日程が準備できるのか、などを合わせて考える必要があるでしょう。
雑誌やインターネットで魅力的な山が目標に見つかった際、もしかするとそこは容易にはたどり着けない場所かもしれません。目的地にたどり着くためには、漸進的に経験を積んでいく必要があることを知っておきましょう。
例えば目標とする山へたどり着くための所要時間が、往復10時間の歩行時間の場合、初心者が急に挑戦するには強度が高すぎるかもしれません。そのルートに挑戦する前に、往復3~4時間のコース、往復5~6時間のコース、往復7~8時間のコースと短い順に経験を積んでいくなど、長期的な計画が必要となってくるでしょう。
行動する季節や時間帯を考える
計画を立てる際にまず考えるべき事項として、季節と天候があげられます。
当然、夏は日が長いため行動時間は長く取れますし、秋は日暮れが早くなるため時間は限られますね。早朝から行動する場合、ヘッドライトを準備するなどして暗い時間帯を行動時間に含める選択肢もありますが、山での日暮れは非常に怖く道迷いのリスク等が増大するため、山小屋への到着や下山完了の予定時刻には大きく余裕を持つ必要があります。
また、日暮れだけではなく天候の悪化にも注意が必要です。特に夏場は地表が熱で温められ、山肌に沿って上昇気流が生まれます。山の上には大きな雲が発達し、にわか雨や落雷が発生しやすくなるため、慣れている方ほど午前中のうちに登山を終わらせることを目指すのを知っておいてください。(少なくとも12時には下山を始めている、などシビアに計画をします)
せっかく苦労して山頂にたどり着いたのに、真っ白で何も見えない…ということは、登山初心者にはよくあることです。リスク回避だけではなく、「良い景色に出会う」という目標のためにも、雲があがる前に山頂にたどり着きたいですね。午前9時や10時には平地から山上に向かって雲が昇り始めることも多いため、なるべく早め早めの行動を心がけることをお勧めいたします。
登山口や交通手段、コースを考える
登山の日程を考えた後には、当日たどるコースを検討する必要があります。書店などで各社が販売している地図には、それぞれの区間を歩くのにかかる時間の目安や、詳細な登山口・登山道情報などが記されています。
ただし、登山道やそこにアクセスするまでの道のりの状況は刻一刻と変化していますので、管轄の市町村や、インターネット・SNSのレポートなどで最新情報を随時確認するようにしましょう。
行動したい時間を決めても、その時間に登山口にいるのが現実的かどうかを考えなくてはいけません。マイカーで行動ができる方は比較的自由がききやすいですが、登山口はアクセスが悪い場所に設置されていることも珍しくありません。公共交通機関を利用する方は、登山口近くに前泊することが必要な場合もあるでしょう。
また、地図に記載されている時間はあくまで目安です。特に初めて行く山では、思っていたよりも時間がかかってしまった場合や、分かれ道で方向を間違えた場合などを想定し、余裕を持った行動計画を立てるべきです。
登山に慣れてきたころには、地図に記載されている時間よりも早く歩ける方なのか、少し多くの時間がかかってしまう方なのか、傾向がつかめてきますので自身の歩行速度の特徴を知っていってください。
なお、一般的に一緒に行動する人数が多ければ多いほど、多くの時間がかかります。「いつもは2~3人だけど、今回は5人で」のような場合には、注意して計画を行ってください。
道具を揃え、持ち物を考える
先に述べた通り、登山には多くの魅力があります。その反面、道迷いによる遭難や、天候悪化のリスクなど、配慮するべき注意点も多くあることを知りました。他にも危険動物との遭遇や、思わぬ怪我・体調不良なども考えられますね。
リスクヘッジの基本は「事前の準備」に尽きます。有事の際に対応ができるよう、登山当日は様々なアイテムを持参することが基本です。では、具体的にどんな準備が必要なのか確認していきましょう。
登山における三種の神器とは
登山では多くの荷物が身を守るため、様々な専用品を揃える必要があります。とはいえ、急に全部買うのは経済的にも苦しいところ。その中でも特に重要な3つを「三種の神器」と呼びます。登山における最重要な専用品は以下の3つです。
- 登山靴
- バックパック
- レインウェア
まず、 登山靴 に関しては、値段が安いものでも構わないので専用品を準備したいところです。ぬかるんだ道での転倒防止や、不安定な道で足首を守る構造など、他の運動靴では代替しづらく、重要な要素が揃っています。登山靴ではない運動靴で登山道を歩くと耐久性が不足していて、1回で運動靴を劣化させてしまうことも考えられるため、節約しようとして代替したのに、逆にコストパフォーマンスが悪いということも想像していただくと良いでしょう。補足として「靴下」も非常に優先度が高い専用品です。
次に バックパック について。先述した多くのアイテムを収める「入れ物」です。専用品は身体への密着がよく考えられ、長時間重い荷物を背負っていても疲労を感じずらいなどの特徴があります。他の2つに比べて、どうしても予算が足りない場合などはデイバッグなどで代替できますが、安価で準備できる「ザックカバー」は少なくとも用意しておくべきでしょう。雨に降られた際に、大切な荷物が濡れてしまうことは致命的です。(専用品にはザックカバーが標準装備されているモデルもあります)
最後は レインウェア です。これは上下セットで販売しているものが各社より展開されています。非常に小さく収納でき、防水効果の高い素材で作られています。登山中に身体を濡らすことは大きなリスクです。高山では平地に比べ気温が下がり風も強く吹くため、濡れていることで低体温症などの発症リスクが高まります。山中は天候が変化しやすいため、雨が降ってきたときに着脱できる専用品の持参は必須だといえるでしょう。
単独行の場合は「熊鈴」を装着
複数人で行動している場合には、話し声でクマなどの危険生物は近づいてきません。単独で山中を歩く場合は、「熊鈴」と呼ばれる〔音〕を鳴らすのが一般的です。他にも笛やライトなど、有事の際に自身の存在を周りに知らせるアイテムを持っておくと安心だといえるでしょう。
水や食料は余分に持っていく
どんなに優秀な計画を立てても、予定通り進まないことも多くあります。最悪の場合、その日中の下山が叶わず、山中で一泊なんてことも。そのため、命をつなぐ水や食料は余分に持っていくことが常識です。ただし、荷物が増えれば増えるほど重くなり、余計に体力を奪うことも考えられるため、現地の水場は枯れていないか?途中で通る山小屋には売店があるのか?など、確実な情報収集ができている場合には、体力面も鑑みた危機管理を行っていきます。
水にまつわる悩みで、もう一つ陥りやすいのが「トイレ事情」。山では平地と異なり、用を足したいときにそこにトイレがあるとは限りません。携帯トイレやペーパーなど、もしもの時に備えて準備しておくことをお勧めします。ここには記載しませんが、山でトイレに行きたくなった時には、それを仲間に伝えやすい「隠語」もあります。「お手洗い!」と言いづらい方は事前に調べておきましょう。
"その時" に備え、楽しい準備を!
登山を行う方は、楽しさと表裏一体である「危機管理」について常に考えているため、リスクについての説明を多くしてきましたが「ああなったらどうしよう」「こうなったらどうしよう」と考えている時も、登山の一部であり醍醐味です。
自身が素晴らしい景色の中で、どんな服装で立っているのかを想像しながら服を選ぶのも心が躍りますよね。「帰るまでが遠足」ではないですが「準備からが登山」だと思い、万全な準備を整えていきましょう。今回の記事でご紹介したのは登山に向けた準備のほんの一部です。ここに記載のない心配事項も、自身のアイディアでぜひ攻略していってください。
最後に、体力に自信がない方は本番に向けて「トレーニング」も必要ですね。本協会はトレーニングの紹介を得意とした団体ですが、それはまたの機会にお伝えできればと思います。簡単にできる工夫ですが「登山靴でのウォーキング」や「重い荷物を担いで散歩」などは、登山に向けた良い練習になります。自宅の近くで安全にできる運動であれば、身体の準備も今から行っていけますので、今後訪れる楽しい時間を想いながら過ごしていきましょう。