今回はアウトドアトレーナーの講習会で学ぶトレーニングメニューの中から、自宅で簡単にできるトレーニングについてご紹介いたします。
ランニングトレーナーが指導するマラソンやランニング、マウンテントレーナーが指導する登山やハイキングでも共通して重要となる部位について確認していきましょう。
歩行や走行で重要なお尻の筋肉
トレーニングについて調べたことがある方なら常識ともいえるのが「お尻」の筋肉の重要性です。
お尻といっても、「臀部」には多くの筋肉があるため、それぞれの機能や特徴を理解して鍛えていく必要があります。ランニングや登山では「大殿筋」「中殿筋」「梨状筋」などが特に重要となってきますが、今回はその中から「大殿筋」のトレーニングについて紹介していきます。
太ももの負担を減らし、お尻を活発に
まず、そもそも何故お尻の筋肉が重要なのかを考えていきます。ランニングや登山を行う際の目的は様々ですが、目的の達成には共通して以下の要素が必要になると考えられます。
- なるべく長時間運動したい
- 推進力を生みたい
マラソンで長距離に臨む場合や、シェイプアップを目的としてエネルギーを多く消費したい際には、「持久力」が求められますね。また、同じくマラソンでベストタイムを出したい際や、登山で山頂へ向かうためには「推進力」も必要です。
「大殿筋」は、そのどちらの要素も満たしてくれる可能性がある、とても重要な筋肉なのです。
遅筋(typeⅠ線維)と筋持久力
皆さんは「遅筋」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?身体に600以上あるといわれている筋肉には、それぞれ「得意・不得意」があります。
遅筋とは収縮の速度は遅いですが、長時間活動することができる「持久性」のある筋のことです(反対に収縮の速度が速い速筋と呼ばれる筋もあります)。学術的にはtypeⅠ線維(遅筋)、typeⅡ線維(速筋)と呼ばれます。
ランニングや登山においては、推進力を生む筋として太もも(大腿四頭筋)やお尻(大殿筋)が用いられることが多いですが、結論からいうと『太ももの筋肉を使いすぎて、お尻が上手く使えていない』ケースが多いのです。
下図のように、大殿筋は大腿四頭筋に比べて遅筋線維のしめる割合が多いため、上記のようなケースを回避し、大殿筋を使えるようにトレーニングしておきたいですね。
単関節筋の活用は機能障害予防にも
2つ以上の関節を跨いでいる二関節筋・多関節筋は速筋線維の割合が多い傾向が強く、1つの関節を跨いでいる単関節筋は遅筋線維の割合が多い傾向が強いといわれています。
ある報告では、二関節筋の作用時は、負荷が一か所に集中しやすく機能障害を起こす一因になるとされています(理学療法ジャーナル 42巻6号 , https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1551101197)。
原因は他にもありますが、ジャンパーニーや登山下山時の膝の痛みなどは、二関節筋・多関節筋に依存し、単関節の出力割合が低いことに起因しているケースは多いと考えられます。
大腿四頭筋は二関節筋、大殿筋は単関節筋に分類されるため、この観点からも日常から大殿筋を鍛え、アクティビティの際にオートマチックに動く状態を獲得しておきたいところです。
ランニングでは「頭の上下動」を少なく
さて、トレーニングの解説に入る前に、最後にランニング時の気を付けたいポイントを確認していきましょう(登山などの歩行でも同様です)。
メインで活用したい大殿筋が生み出す動きは股関節の伸展・屈曲で、つまりは前後に推進力を生みます。その反面、依存を脱したい大腿四頭筋は膝関節の伸展・屈曲を生み出し、生む推進力は上下です。
「前に進む」ことが重要な歩行や走行では、上下へのロスは最低限に抑えたいですね。ランニング時や歩行時に、頭の上下動を確認することで、現状を客観的に評価できることも知っておいてください。
大殿筋のトレーニング、ヒップリフト
さて、今回ご紹介するトレーニングメニューは「ヒップリフト」です。
今回の記事でこのメニューを紹介するのは、"比較的簡単に正しいフォームで実施ができるから"です。間違ったフォームでのトレーニングは期待する効果を得られないどころか、身体に悪影響を与える場合もあるため、注意が必要です。
〔ヒップリフトの動作〕
①あおむけで膝を曲げ、足裏を床につく
②足と膝を腰幅に開き、骨盤を持ち上げておろす
③呼吸を止めないよう、同じ動作を繰り返す
反動をつけないように、60秒×3セット
体力に応じて、60秒以上×3セットを実施しましょう。ヒップリフトはそこまで強度が高い筋力トレーニングではないため、余裕がある方は1セットの時間を長くしてください。(60秒を3セット行っても、たった3分の運動です!)
セット間は呼吸を整え、自身の感覚で「ややつらい」を脱したら、次セットを始めるようにするのが、おすすめです。
こちらの運動は毎日ではなく週に2~3回程度、実施する日は間を空けて行いましょう。強度は低め、といいましたが慣れるまでは無理せず1セットからのスタートでも構いません。徐々に運動量を高めていってください!
お尻を鍛えて、ランニング・登山の課題解決を!
今回はランニングや登山に有効なお尻のトレーニングをご紹介いたしました。数あるトレーニングの中でも、簡単に実施ができるメニューなので、注意点に気を付けながらぜひお試しください!