今回は多くの登山者が悩みとして抱えている「膝の痛み」について、改善が期待できる歩き方と、日頃から実践できるトレーニングをご紹介いたします。
膝が痛いからスクワットは間違い
一昔前は「膝が痛い=下半身筋量が不足」という考えから、「とにかくスクワットをしなさい」と教えられる機会が多くありました。しかし「膝が痛い」は一通りの原因ではなく、膝のどの部位が痛むのか(例えば内側なのか中央なのか外側なのか)によっても対応策が変わってきます。
そのどれもが特定の筋に依存をして歩き続けることで起こる"オーバーユース症候群"であることが多いにも関わらず、原因究明を行わずに「スクワットをしておけばいいだろう」という考えに至るのは安易だといえるでしょう。
また、スクワットで使われる代表的な筋肉の大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)は、膝蓋腱炎という登山でよく起こるオーバーユースの原因となる部分です。膝の痛みが出る方にとってスクワットのトレーニングは逆効果となってしまう可能性も大いに考えられます。
上半身重心と下半身重心
今回は主に前述した「膝蓋腱炎」のパターンについて考えていきます。膝の痛みには別の原因・種類があることを忘れてはいけませんが、比較的登山者に多いケースですので、悩まされている方は解決の一助となるかもしれません。
上図では特に膝や周辺の筋群への負荷がかかりやすい下山のシーンにおいての、上半身重心(みぞおち辺り)と下半身重心(大腿骨上方)の位置関係を可視化しています。左に比べ右は、上半身重心が下半身重心よりも後方に位置しており「後ろ体重」であることが見てとれます。
実はこの「後ろ体重」が、大腿四頭筋に過度なストレスを与える要因となっているため、図左のように下半身重心の真上に上半身重心が乗るよう、意識する必要があるのです。これは登り坂の局面でも同様のことが言えます(よく言われる大股で歩くと下半身疲労が早まるのは、このことも起因しています)。
痛みが出てしまった際に実施すべきケアと補強トレーニング
とはいえ、登山中に自身の歩き方を横から見ることもできなければ、「後ろ重心」で歩いている方がそれを自覚していることも多くありません(長時間、意識をし続けるのも難しいですね)。そのため、起こってしまった際には適切なケアを行い、再発防止には重心位置をコントロールする練習が重要です。
・大腿四頭筋の静的ストレッチ
片足で立ち、反対側の膝を曲げ足首を手でつかみます。太ももの前側の伸びを感じながら気持ちのいいところで15秒間数えます。終わったら反対側も実施しましょう。バランスがとりづらい場合は、壁などで身体を支えながら行ってください。
・バック・アンド・フォース
片脚を前に持ち上げ、反対の脚で立ち安定します。ゆっくり前脚を着地させ、代わりに後脚を持ち上げてバランスをとります(この時、立っている脚の膝が伸びきらないように注意しましょう)。前脚で立っている時も後脚で立っている時も、バランスをとっている側の脚の真上に上半身重心が乗るよう意識します。
鏡などをみながら重心位置を確認し、前後でそれぞれ1秒程度停止してください。片側で5往復実施したら反対側も同様に行います。
膝の痛みのない、楽しい登山を
今回は「膝の痛み」でよくあるケースのご紹介と、日ごろ実践できる重心移動の練習方法をご紹介いたしました。文中にも記載いたしましたが、同じ「膝の痛み」にも別種類の怪我があるため、原因の見極めが大切なことを忘れずにご覧ください!
また、膝の痛みの予防や軽減にはポール(ストック)の活用も効果的です。但し、こちらはあくまで負荷の軽減であって根本解決ではないため、ポールに頼ることでより負荷が蓄積しやすい歩き方になってしまわないよう、注意しながら用いることをお勧めします。
「身体の使い方」の癖は、一朝一夕で解決できるものではないため、継続的な取り組みが重要です。悩まされている方は毎日短時間でも構いません。ケアや練習(トレーニング)を実施していきましょう。