今回はアウトドアトレーナーの講習会で学ぶトレーニングメニューの中から、自宅で簡単にできるトレーニングをご紹介いたします。
歩行やランニングの際に重要となる「肩甲帯の動き」について確認していきましょう。
肩甲帯とは
「肩甲帯」という言葉は、あまり聞いたことがない方も多いかもしれません。「肩甲骨」とニアイコールですが、同義ではないため事前に言葉の定義を確認しておきましょう。
デジタル大辞泉(※)によると「肩甲帯」は「上肢帯」と同義で、「腕および手を支える骨格。肩甲骨・鎖骨からなる。」とされています。
※参照: https://kotobank.jp/word/%E4%B8%8A%E8%82%A2%E5%B8%AF-531790
ランニングにおける「腕振り」
肩甲帯の定義を確認したところで、その肩甲帯が何故重要なのかを確認していきましょう。
ランニングにおいて「腕振り」が重要なのは、ジョギング・ランニング・マラソン等に取り組んだことがある方なら、体感として理解しやすいかもしれません。トレーニングにおいて重要なのは、それが「何故重要か」を自覚していることです(トレーニングの五原則:自覚性の原則)。
歩行やランニングでは、「足で後ろに蹴り出す動き」と「手で前に進もうとする動き」を組み合わせて推進力を生みます。力は地面に接地している部分から順に伝わるため、前者は必須ですが、極論手は振らなくても前に進むことは可能です。
「推進力の向上」と「重心の安定」
前述の通り、手は振らなくても前に進むことは可能です。しかし「より長く」走るためには、当然一カ所で同じ負荷を負担するよりも、かかる負荷を分散した方が効率的でしょう。また「より早く」走るために、"足だけ"よりも推進力を期待することができます。
また、腕振りは通常歩行の中で「随意的」に行われるものではなく、「非随意的(無意識)」に行われていることから、重心位置の揺らぎを抑えるための「自動的な反応」とも考えられています。
ランニングの運動連鎖
さて、「推進力を生む」ことについては、スポーツなどの動作を考える際によく使われる「運動連鎖」を軸に検討していきます。運動連鎖とは、ある動き(例えば野球のピッチングやサッカーのキック)を行う際に、地面などから得られた力を、いくつもの筋肉や関節を経由して伝えていくというものです。
運動連鎖は「ある関節の動きが、隣接する関節へ影響を及ぼす」という概念のため、ランニングの場合、はじめに『地面』から得られる力。次に(身体の中でも質量の大きい)『体幹部分』から得られる力が順々に「近位」から伝わっていくことがイメージできます。
「肩」よりも近位にある「肩甲帯」
実は「腕」や「肩」は、体幹を構成する「脊柱」や「胸の骨」と隣り合っていません(記事冒頭の画像を確認してみましょう)。地面へも体幹へも、力を伝えるためにはより近位である肩甲骨や鎖骨、つまり「肩甲帯」を動かしていくことが重要です。
「肩甲帯」は現代の日常生活では、あまり動かすことができていないケースが多く、いざ運動時に「動かすように」と言われても、どう可動させてよいか分からない方も多い部位です。
そのため、「肩甲骨や鎖骨」を意識的に動かすことが重要です。専門用語で「代償」といいますが、肩の関節・腕の筋肉でも「似た動き」を生み出せるため、可動させる場所をよく意識しながら以下の種目を行ってみましょう。
スキャプラ・ローテーション
- 脚を前後に開き、両手を前に伸ばして掌を合わせる。
- 後ろに引いた脚側の手をあげ、肩甲骨を上、後ろ、下、正面の順に動かし、繰り返す。
- 前に出した脚側のつま先や膝、股関節、肩、肘、手の指先などが動かないよう注意して行う。
上記の種目は左右対称を意識し、片側10~15回×2セットを目安に実施してください。「動きづらい」と感じる側は2~3回余分に行うのも良いアイデアです。
普段、肩甲帯を動かすことができていない方の場合、少し動かしただけでも良い運動となり、背中周りの筋肉痛を期待できるかもしれません。まずは週に2~3回程度、無理のない範囲で試してみてください!