長時間の運動となる登山には、スポーツそのものを楽しむだけでなく「筋持久力向上」や「心肺持久力向上」の観点で「良いトレーニング」になる、という側面があります。今回は "次のステップへ進むため" におすすめの「トレーニング登山道10選」をご紹介いたします。その選定条件は以下の通りです。
- 健脚者であれば日帰りでの山行報告もあるコース
- 関東・中部地方を中心に北海道から九州まで全国各地より選定
- 日本三大急登・北アルプス三大急登を含む
本記事では所要コースタイム順に「初心者~初級者向け」「初級者~中級者向け」「中級者~上級者向け」「エキスパート向け」の4つに区分してご紹介。各山岳毎に「総コースタイム」「山頂標高」「単純標高差」「登山口/登山道」の情報を明記いたしますので、ご自身のコース選定にお役立てください。
初心者〜初級者向け(総コースタイム3~5時間)
丹沢大山 標高1,252m(神奈川県)
- 総コースタイム:4時間30分
- 単純標高差:937m
- 登山口/登山道:大山ケーブルバス停
公共交通機関でアクセスできる本コースは、今回ご紹介する中では「最も手軽」な一座です。とはいえ約1,000mの標高差を登ることから、強度は比較的高くトレーニングに最適だといえるでしょう。状況によってケーブルカーでのエスケープも選択肢に含められるため、初心者にもお勧めです。
総コースタイム4時間30分は、ケーブルカーを使わずに女坂を登り、富士見台を経て山頂へ。下山は見晴台を経由し阿夫利神社へ戻り、男坂で下山するコースです。
初級者〜中級者向け(総コースタイム5~9時間)
谷川岳 標高1,977m(群馬県/新潟県)
- 総コースタイム:6時間20分
- 単純標高差:1,231m
- 登山口/登山道:西黒尾根(日本三大急登)→天神尾根
ロープウェイを用いた手軽な登山も楽しむことができる日本百名山の谷川岳ですが、最もおすすめなのは日本三大急登にも数えられる西黒尾根を登る道です。スリリングな鎖場もあり、冒険的な登山を楽しむことができます。急な岩場が多いことから、下山時に用いることはあまりお勧めしません。
今回の総コースタイム6時間20分は、西黒尾根でトマの耳・オキの耳のピークを目指し、下山には比較的穏やかな天神尾根とロープウェイを用いるコースです。
祖母山 標高1,756m(宮崎県/大分県)
- 総コースタイム:7時間15分
- 単純標高差:1,154m
- 登山口/登山道:尾平登山口
九州からは日本百名山の祖母山をご紹介。比較的楽に山頂を踏めることが多い九州地方の中では、歩行時間の長いハードな一座です。豊富な登山コースがある山ですが、尾平登山口からは美しい渓谷を起点に周回コースを楽しむことができます。
今回は第一吊橋を渡り、宮原コースで山頂へ。山頂からは天狗岩を経て黒鉄山尾根コースで下山するルートで総コースタイムは7時間15分です。
燕岳 標高2,763m(長野県)
- 総コースタイム:8時間05分
- 単純標高差:1,313m
- 登山口/登山道:合戦尾根(北アルプス三大急登)
表銀座縦走コースの起点となる中房温泉から合戦尾根を登るコースは、北アルプス三大急登に選ばれます。燕岳の美しい山容は数々の登山雑誌やサイトで頻繁に紹介されるほどの人気です。
燕山荘を用いた一泊登山では、1日の歩行距離がぐっと抑えられるため「入門の山」とされることも多いですが、行動時間8時間・標高差1,300m超えは充分「中級者向けコース」といえるでしょう。今回は同ルートを折り返してくるピストンコースでコースタイムを算出しています。
中級者〜上級者向け(総コースタイム9~13時間)
白山 標高2,702m(岐阜県/石川県)
- 総コースタイム:10時間05分
- 単純標高差:1,452m
- 登山口/登山道:平瀬道
平瀬道は三県に跨る「日本三霊山 白山」の岐阜県側登山口で、白川郷近くの白水湖から登ります。途中、大倉山を経て室堂に至る長い道のりは、頂稜部も含めて1,500m近い標高差です。ルート上に避難小屋が一つしかないため、室堂が見えたときには達成感と安心感を得られるでしょう。
室堂からは体力と時間に余裕があれば最高峰の御前峰だけでなく、大汝峰まで足を運び美しい火口湖を眺めるのもおすすめです。
トムラウシ岳 2,141m(北海道)
- 総コースタイム:10時間20分
- 単純標高差:1,138m
- 登山口/登山道:短縮コース登山口
北海道からはトムラウシ岳をご紹介。どの登山口からも山頂が遠く、過去には遭難事故がニュースにもなるなど、一筋縄ではいかない一座です。その名の通り「短縮登山道」が山頂までの最短ルートですが、それでもコースタイムは10時間超え。
北海道では沢の水を飲むことが推奨されていないため、長時間水を担がなければならないことも、体力を奪う一因です。体調や天候と相談しながら無理のない登山計画を立てましょう。
烏帽子岳 2,628m(長野県/富山県)
- 総コースタイム:10時間25分
- 単純標高差:1,358m
- 登山口/登山道:ブナ立尾根(日本三大急登/北アルプス三大急登)
日本三大急登と北アルプス三大急登にともに名を連ねるのは、このブナ立尾根が唯一です。北アルプス裏銀座縦走コースの起点で、日帰りでの山行は烏帽子岳をゴールとするか、体力と時間に余裕がある方は静かな山頂と360度の絶景が嬉しい「三ツ岳」、水晶岳の景色に圧倒される「野口五郎岳」での折り返しも候補に入ります(野口五郎岳まで行く場合は、天候に恵まれた上でコースタイムの5割程度の速さで歩く必要があります)。
今回は高瀬ダムをスタートして烏帽子岳での折り返しの計算をしていますが、マイカー規制のかかる七倉山荘より、タクシーの時間を待たずに出発する場合は、往復で+3時間ほどの道のりとなるため注意しましょう(タクシーの下山最終時刻を逃した場合も同様に、高瀬ダムから七倉山荘は徒歩での下山となります)。
エキスパート向け(総コースタイム13時間以上)
飯豊山 2,128m(福島県/山形県/新潟県)
- 総コースタイム:13時間45分
- 単純標高差:1,643m
- 登山口/登山道:弥平四郎登山口
東北地方からは飯豊山を選定。こちらもどの登山口からもロングコースとなるため、「山深さ」を感じることができる一座です。今回ご紹介する弥平四郎口は福島県側からの入山で、三国小屋を経て山頂を目指します。
何かアクシデントがあった際に、避難小屋で夜を過ごすことも想定した備えをもって入山すると良いでしょう。往復のコースタイムは約14時間。挑戦をする際には体力を過信しすぎず、慎重な判断が求められる距離です。
甲斐駒ヶ岳 2,967m(山梨県)
- 総コースタイム:15時間20分
- 単純標高差:2,207m
- 登山口/登山道:黒戸尾根(日本三大急登)
山登りに精通している人に"難関コース"を尋ねると、よく候補にあがるのがこの「黒戸尾根」。実に2,000m以上の標高差を誇る日本三大急登の道のりです。甲斐駒ヶ岳の特徴的な山容は、どの山から望んでも大きな存在感を放つため、いつかは登りたい憧れの山。
このコースには途中宿泊のできる山小屋があるため、無理のない登山計画で望んでください。険しい岩場など、体力に任せて急ぐことができない箇所もあるため、充分な経験と計画を以ってチャレンジしましょう。
劔岳 2,999m(富山県)
- 総コースタイム:15時間20分
- 単純標高差:2,249m
- 登山口/登山道:早月尾根(北アルプス三大急登)
最後にご紹介するのは「日本最後の未踏の地」と名高い、劔岳です。この山のピークに"唯一"日帰り登頂を検討できるのが早月尾根ですが、コースタイムは15時間越え。標高差は黒戸尾根を凌ぐ約2,250mです。長期にわたるトレーニングの末、天候条件に恵まれないと達成は難しいかもしれません。
途中、早月小屋での宿泊ができますので、挑戦をする方は一泊も視野に入れるべきでしょう。一泊二日でも十分なロングコースです。「試練と憧れ」の石碑から、序盤2,200mの早月小屋までは樹林の急登。早月小屋以降は岩場・鎖場の連続が待ち構えています。
【番外編】11座目は日本最高峰「富士山」の最難関コース
富士山 3,776m(静岡県/山梨県)
- 総コースタイム:10時間30分
- 単純標高差:2,336m
- 登山口/登山道:御殿場口
実は「上級者向け」と言われることの少ない「富士山」にも、劔岳早月尾根を凌ぐ標高差のコースがあります。吉田口・富士宮口・須走口に次いで、富士登山者の5%しか登らないといわれている御殿場口。最も山頂に近い五合目である富士宮口が2,390mなのに対し、御殿場口五合目は1,440mからのスタートです。
このコースの辛さは長い砂利道歩き。ご来光を目指す深夜の登山はまるで火星にいるかのようです。実は甲斐駒ヶ岳や劔岳に比べるとコースタイムは短く、往復で10時間強。そのからくりは下山にあり、大砂走りコースで一気に五合目まで下ることができます。
考え抜いた「ステップアップ」で、安心安全なトレーニングを
さて、今回ご紹介した山岳・コースはいかがでしたでしょうか。
平地でのトレーニングや他スポーツと異なり、気象知識やその情報収集・山登り自体の経験や装備など、体力以外の要素も重要となります。
トレーニング(鍛錬)の考え方には「漸進性」という原則があり、自身の体力や技術レベルに見合わない強度へ一気に挑戦するべきではありません。一歩一歩、安全に配慮した効果的なトレーニングを積んでいきましょう。